田辺ひゃくいちの冒険

踏みつけたくなるウンコを求めて。

板東英二と板東英二を足して2で割ったような男とブランチする冒険

司馬遼太郎の『竜馬がゆく』にて、桂小五郎は「男子は好悪の事は言うべきでない」と言っていたが、残念ながら私にはこの世で一番嫌いなことが一番なのになぜかたくさんあるし、声を大にして言ってしまおうホトトギス。私は「クライアント訪問」が大嫌いである。

まして「ブランチミーティングでもいかがですか」なんて誘われた日には、いつも胸ポケットにストックしてある手書きの退職届をPDF化して、遠隔地から電子メールで送付してしまいたくなる。

なぜ、出勤前の貴重な睡眠時間を削ってまで、「すべてお任せしますよ!」と丸投げしておきながら、見当違いなクレームを今朝出した糞のようにネチネチとのたまいつづける男の言葉を拝聴してやらなければならないのか。

そう、男なのである。板東英二板東英二を足して2で割ったような、「ブランチ」ではなく「朝飯」、いや「朝糞」がお似合いな中年男との「Brunch Meeting」なのである。

しかも、「Wikipedia」で調べてみたら、

ブランチ(brunch)とは、朝食と昼食を兼ね備えた食事のことである。英語のbreakfast(朝食)とlunch(昼食)を合成したかばん語である。しばしば、朝食と昼食の両方に取って代わられる食事とされる。(中略)午前10時より前に食べ始める食事の場合はブランチとは考えられない。その時間ではまだ朝食の時間と解されるからである。ブランチの取られる典型的な時間は午前11時頃である。昼食時間帯に近いが、それよりは前の時間である。 

とのこと。

呼ばれたのは午前9時。ブレックファーストじゃないか!

そんなことをつぶやきながら、自宅からはるか遠く離れたご指定のハンバーガー屋さんに到着。

すでに板東英二は席におり、「実は時間があまりないでござんす」となぜか中途半端な江戸弁でおどけてきた。

私の料理もスタンバイ済。選択の自由なし。寝起きのかよわき胃袋にはぴったりの「激辛チョレギハンバーガー」である。

 

「辛さレベルが100倍まであるんだけどさ、当然、百一さんのは『百』倍にしといたよ……って冗談! 冗談だよ!」

 

アハハハハハ。

 

「で、早速なんだけどさ。先週、いくつか納品してくれたコンテンツについて聞きたいんだよね」と、板東がハンバーガーにかぶりつきながら話をはじめる。

『はい。どのコンテンツについてでしょう』と、私も仕方なくハンバーガーにかぶりつく(…う、うん。なかなか旨いね)

「えっと、あの三つ目のやつ」

『三つ目?』

「たぶん」

これでは話が何も進まないのでPCでも出そうかと思ったのだが、両手にはチョレギバーガー。コチュジャンまみれ。しかも、少しでも手の力を緩めれば「チ」と「ョ」と「レ」と「ギ」に崩壊してしまうに違いない不安定さ。

 

……驚愕の事実に気づくまでにお互いが要した沈黙は数秒間。

 

なんてことだ。

これじゃ、食い終わるまで有益な話とやらが、まったくできないじゃないか。

 

「と、とにかくさ、うちの既存の利用者へもっと訴求できるコンテンツを作ってほしいんだよね」

『しょ、承知しました。では、現状の利用者層についてお聞かせください』

「利用者層? いや、正確には把握してないな」

『え?』

「とりあえずさ、お笑いとかエンタメ要素で盛り上げて、うちの商品を使ってるとか使ってないとか細かいことは関係なく、幅広く認知させてくれるだけでいいわけよ」

『え?』

 

二重人格なのか。まるで三人で話しているかのような気分になる。

結局、ターゲットは「既存ユーザー」なのか「新規ユーザー」なのか。どっちなんだよ。もう。

 

『御社の商品を幅広く認知させる方向でいいわけですね』

「そうそう、もうバズンとバズってくれるような面白いやつだったら何でもいいよ」

 

出ました、名言。「バズンとバズる」。

 

『分かりました。では、目標設定としてはPV数でいきましょうか』

「いやいや、PV数なんてどうでもいいんだよ。うちのサイトの無料会員がどれだけ有料プランに登録してくれるかが大切だって何度も言ってるよね?」

『え?』

 

やはり、ジキルとハイドなのか。いや、むしろ、チョレギとハ……チョレギとハ……(いいのが思いつかない)。結局、幅広く認知させるのか、コンバージョン(CV)を狙うのか。どっちなんだよ。もう。

 

そこまで言い終えると、板東は「すまん。もう行くわ。俺のポテト食っちゃっていいから」と消えていった。

 

なんだこいつ……。

 

なんだこいつ!!!

 

まあ、ポテトはいただくとしよう。

げっ、板東の食べかけのチョレギバーガーのソースがべったり付着しておる……ま、いいか。パクパク……

 

 

 

 

 

……全身が震える。

 

 

 

 

 

……意識が朦朧とする。

 

 

 

 

 

怒涛の鼻水を放出させながら、青ざめた手で伝票を開くと、板東が頼んだ方に「100倍」と書かれていた。こ、こんな危険なものを平然と……一体、あいつは何者なんだ。しかも、伝票があるってことは私が払うということじゃないか!

 

チョレギバーガー。

この世で一番嫌いなものがまたひとつ増えた。