日本を捨てて中国で働くゲンサイ(現地採用者)の冒険(2)
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社内用のチャットソフトを立ち上げ、先ほどの新人女性社員を探す。
百田モモ。自己紹介欄には「上から読んでも下から読んでも、モモタモモどすへー!」と書かれている。なかなか手強い相手になりそうだ。
「百田さん、お疲れ様です」
チャットでメッセージを送る。返答はない。 彼女の席を見ると、ヘッドホンをしたままパソコンのモニタを見つめ、不敵な笑みを浮かべている。
「百田さん、お疲れ様です」
もう一度、声を掛ける。
『はい、お疲れ様です w』
なぜ笑っている。
「なにかおかしいですか」
『ああ、すみません。Youku(※中国版YouTube)でブラマヨのコントを見てたので』
こういう相手に対しては、怒ったら負けなのだ。
「仕事をサボってると、皮膚科の先生に相談しますよ」
『で、ご用件は?』
渾身のブラマヨボケを無視されたとしても、絶対に怒っちゃダメだ。
「先ほどの件なんですが」
『ああ、はい』
「周囲の目もありますのでチャットで失礼します。妙なことをお聞きして大変恐縮なんですが『Gスポット』の意味をご存知でしょうか」
『知りません』
「調べましたか」
『調べません』
なるほど。「調べていません」ではなく、「調べません」と。
「http://ja.wikipedia.org/wiki/G%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%83%E3%83%88」
『なんですか』
『はい。開きました』
「この通り、Gスポットはアダルト用語なので、この画像は有害情報として削除すべきです。百田さんの『削除不要』という判断はミスになりますので、今後の作業では気をつけてくださいね。以上です」
事前にメモ帳に書いておいた説明文をコピペし、一気に言い切る。
『Gスポット(Gräfenberg spot:G-spot)とはドイツのエルンスト・グレフェンベルク(Ernst Gräfenberg)にちなんで命名された、恥骨の下にある膣壁前方上部の小さな領域――って全然、エロくないですけど』
「その説明文だと確かにそうかもしれませんがエロ動画、いや、成人男性向けのビデオタイトルなどにも多用されていますし、なんというか、いわゆる女性器界隈を示すキーワードなのでアウトです」
『女性器界隈って。つまり、乳首が出てるか出てないかじゃなくて、この言葉自体が問題だったってことですか』
「まあ、そういうことになりますね」
『それならそうと最初から言ってくださいよ。いちいち、乳首を拡大して見せつけてきたりなんてしないで』
「いや、そういう言い方をされるとなんだか」
『-百田モモさんはログアウトしました-』
「え」
『自動返信-百田モモさんはログアウトしています-』
「ちょっと」
『自動返信-百田モモさんはログアウトしています-』
「あの」
『自動返信-百田モモさんはログアウトしています-』
「……ありがとうございました」
『自動返信-百田モモさんはログアウトしています-』
(つづく)