田辺ひゃくいちの冒険

踏みつけたくなるウンコを求めて。

3連休最終日に「iPhoneから送信」と手打ちして死ぬ冒険

3連休の初日に至急の件でメールを送ったところ、「お休みのところ失礼します、と前置きするのが礼儀だろう」と激怒なされた直属の上司より、3連休の最終日の本日、「至急!! 〇〇の件で聞きたいことがあるので連絡をよこせ」とのメールが届いた。

もちろん、その「〇〇の件」こそ、わたしが3連休の初日に「至急対応しなければ意外と厄介になりそうなことですので」と再三にわたって訴えたものの、「まあ、そんなに焦るなって。安心しろよ。こういったことなら連休明けにでも対応すれば十分だ」と、「大したことでもないのに連休中にまでメールを送ってくるな」といった雰囲気で追い返された件なのである。

彼のFacebookを見ると、ゴルフ三昧の有意義な休暇や合コンもどきの山奥キャンプをひけらかす投稿を連投していた3連休の初日、二日目とは異なり、最終日の本日は朝から目立った投稿がない。

きっと時間を持て余しているのだろう。そして、明日の出勤日を前にして「そういえば百一から連絡があった件でも念のために」となんとなく確認してみたところ、彼の予測をはるかに上回るスピードで悪化している惨状に慌てふためいたに違いない。

まあ、そんなに焦るなって。安心しろよ。忠実な部下であるわたしが、あなたのFacebookのタイムラインに居並ぶ美女たちの画像を下唇を噛んで見上げつつ、ちょうど今、万全の解決プランを練り上げたところですから。

わたしは問題をなんとか乗り切った達成感と、今は亡き3連休とやらの開放感を少しでも味わうべく、3日連続で通いつづけた誰もいないオフィスの自席にて、コロッケパンでチューハイを流し込む。

そして、こんなことを思う。ここで「すでに解決策は検討済ですから安心してくださいね」だなんて迅速に返信できるほど、わたしはできた人間ではないぞ、と。

ひとまず、スマホの電源を切ってみる。それでも、会社のメールソフトには「至急」「緊急」「早急」「小田急」といった悲痛な単語を件名に連ねるメールが届きつづける。

次に、「お休みのところ失礼します。すみません。ちょっと今、どうしても電話できない状況なので改めて連絡します!」と会社のPCメールから返信し、メールソフトも閉じてしまう。もちろん、出先から忙しく返信しているアリバイ工作のため、メールの末尾には「iPhoneから送信」という署名も忘れずに書いておいた。

あとは数時間後。わたしの気が済んだ頃合いにでも電話を掛けるだけだ。

「おまえ、いったいなにしてるんだよ! あの件、大変なことになってるじゃないか!!」と全責任をなすりつけて怒鳴り散らすだろう上司に、「ああ、なんだ、あの件のことだったんですか。まあ、そんなに焦らずに、安心してください。すでにわたしのほうで対応しておきましたから。では、お休みのところ失礼しました。ごきげんよう」と、ジェームズ・ボンドばりに颯爽と電話を切ってやるのだ!

そんなクリティカルリベンジまでのカウントダウン。最高の気分だ。チューハイの酔いも手伝って、少女時代の「GENIE」のMVをエンドレスリピートさせながら自作のくねくねダンスを即興で踊っていたところ、色々と言いたいことがあるものの逆にありすぎて何て言ったらいいのか分からないといった感じで、目の前に上司が立っていた。

妖艶に交差させた手と足を元に戻しながら、「あの件でしたら対応済みです」とジェームズ・ボンドならぬ大木凡人みたいな声で告げると、彼は自分のスマホの画面を見せてきた。そこにはわたしからの返信メールがある。そして「メールの署名を見てみろ」と彼は言う。

そこには「iPhoneから送信」とある。妖艶に突き出した腰とおしりを元に戻しながら「すみません、これは嘘です」と、もはや木工用ボンドみたいな声で肩を落とすと、「違う。よく見ろ」と彼は繰り返す。

分かりましたよ、よく見ますよ!
ほら、よく見ています、よく見ていますよ!
よく見てみましたらね、「iPoneから送信」ですって!!!
アイポンって書いてありました!! 書いてありました! 書いてありました! 書いてありました!(イエモンの「JAM」のリズムで)

クライアントからのメールへ返信するときに、あえて『iPhoneから送信』ってつけて対処する場合もあるだろうから、こういった凡ミスには気をつけろよ。

彼はそれだけ言い残すと、「連休中だったのにありがとうな。おつかれさま」と立ち去って行った。

少女時代の歌声が誰もいないオフィスに何度も何度も響く。
「そうよ、この星は思い通り」