洗濯バサミはもう古い!ハロウィンの仮装で乳首をはさんで異空間を演出できるものを20選する冒険
後輩から初めて飲みに誘われた。
ついに仕事の悩みを相談される頼りがいのある先輩になれたか。
そんな感慨に浸りつつ会社から少し離れたところにある居酒屋へ向かう。
しばらく沈黙が続いたのち、「今週、全社でハロウィンパーティやるじゃないですか。どんな仮装をすればいいですかね」と、後輩の彼は重たき口を開いた。
期待していたものとは若干異なる種類の相談内容に肩を落としかけたが、かつて鈍器のようなもので殴られたのちに海馬の奥底に沈められ、今では半ば白骨化している自身の「先輩像」とやらを力づくで引きずりあげ、事前に推敲を何度も重ねて用意しておいた言葉を最初に告げる。
百一「これまでキミを苦しめつづけた悩みをわたしに打ち明けてくれた勇気に、まずは『ありがとう』と心から言わせてもらうよ。」
後輩「いや、そんなに大げさなことでもないんですけど。なんか、百一先輩ってそういうのに強そうなので聞いてみました」
わたしは社内でどんなイメージを抱かれているのだろうか。
でも、「強そう」と言われて悪い気はしない。
百一「そんなに強そうかな(照)」
後輩「はい。なんかピエロっぽいというか(笑)」
まさかの(笑)返し。
すかさず「いい意味でですよ!」とのフォローが入ったので、いったいどんな良い意味があるのかを厳しく問いただしてやろうかとも思ったが、その結果で致命的なダメージを受けるのは確実にわたしのほうに違いないのでやめておいた。
まあ、なんにせよ、悩みを打ち明けても意味がない先輩ランキングで殿堂入りを果たしたわたしなんかに相談してくれたのだ。できる限りの回答をしてあげようじゃないか。
百一「ドン・キホーテとかで売ってるコスチュームじゃだめなんだ?」
後輩「はい。どうせならインパクトを狙いたくて」
ここだ。ここしかない。
人生で一度は言ってみたかった言葉を告げてみる。
百一「いいね。ちょっとだけ、若いころの自分を見ているみたいだな」
後輩「…………hahaha」
うん。悪かったよ。
百一「ま、まあ、ハロウィンだからってあまり突飛なものを狙う必要はないんじゃないかな」
後輩「なるほど」
百一「あくまで自分が本当に好きな格好をハロウィンでもしてみればいいと思うよ。何かないの?」
後輩「一応、ありますけど」
百一「おお、いいね。どんな格好が好きなの?」
後輩「洗濯バサミで乳首をはさまれるのが好きですね」
フーン、ホウホウ。
コバエとフクロウを掛け合わせたような相槌で先輩としての平静さをなんとか保ったものの、その衝撃はなかなかにすさまじかった。
後輩「でも、乳首を普通に洗濯バサミではさんでも面白くないじゃないですか」
確信した。
この子、相談されたくない後輩ランキングで殿堂入りしてるに違いない。
後輩「先輩、もっと異空間に誘ってくれそうなアイデアってないですかね。いまここで20個くらい出しあってみましょうよ」
百一「異空間へ誘ってくれそうなアイデアねえ……なんで20個も?」
後輩「よくあるじゃないですか、〇〇10選とかいったまとめ記事。毎朝、総務部の琴音ちゃんが真剣な顔で読んでるやつです」
なにそのストーキング。
まして、わたしをセクハラで告発したような女をつけ狙うだなんて趣味が悪いな(こちらの詳細は「風俗接待も大切な仕事だというので風俗手当の支給を提案する冒険」にて)。
百一「つまり、洗濯バサミはもう古い!ハロウィンの仮装で乳首をはさんで異空間を演出できるもの20選、みたいな?」
後輩「そうそう、それいいですね!」
こうして「ハロウィンの仮装で乳首をはさんで異空間を演出できるもの」というお題の合コンっぽさが微塵も感じられない山手線ゲームが、東京下町の寂れた居酒屋に座る冴えない男二人によって幕を切ったのである。
以下、ゲームの結果として、居酒屋の紙ナプキンに鉛筆で書き残された不可思議なメモを後輩の要望通りにまとめ記事っぽく紹介する。
洗濯バサミはもう古い!ハロウィンの仮装で乳首をはさんで異空間を演出できるもの20選
物質編
バンズ
フィレオフィッシュのやつが特におすすめ。
バンズの代わりにレタス
モスレタスの要領でヘルシーに。
歩
ハサミ将棋。懐かしさ重視。
タラ
チータラのタラの部分。チクタラ。
オセロの黒
はさまれたから黒くなったの。乳首色のエクスキューズに最適。
肩と耳
同時に右手でメモを取れば仕事ができる男。
エレベータの扉
新人さんが「開」ではなく「閉」ボタンを間違って押してしまったケース。
人間編
お坊さんの合掌
御利益アリ。
部下と部長
中間管理乳首。
ファーストとセカンド
この投手は牽制がうまいから注意しろとあれほど言ったのに、と柴田コーチ。
武藤と本田
岡崎。
文字・記号編
$
絶対参照せよ。
「ち」と「び」
ち ● び。
( o )
( ● o ● )
G gle
G ● ● gle。
<marquee></marquee>
「TAKASHI'S HOMEPAGEへようこそ」的な。
「too」と「to」
基本の「too ~ to … 」構文。「乳首すぎるので…できない」の意。
その他編
国民の休日
三連休に。
京都と奈良
● ← 琵琶湖
岐阜と山梨
● ←諏訪湖。
まとめ
もしかしたら20コもないかもしれないが、どうか許してほしい。
居酒屋の店主に「そろそろ閉店ですが」と世界の落としものを見るような目で告げられたときには、わたしも後輩も道端で黒ずむ片方だけの軍手のように疲れ切っており、ゴミみたいなゲーム結果を一つひとつ数え直せるほどの精神的な余裕はなかったのだ。もちろん今も、正確な数など知りたくもない。
後輩は「参考になりまた。ありがとござまた」となぜか片言になって告げたのち、何度も力強く頷きながら地下鉄への階段を転げ堕ちていった。
今週開催される全社ハロウィンパーティが、
彼の仮装によってパニックに陥りませんように。
わたしにはそう祈ることしかできない。
遠くより。
なぜかパーティには誘われていないから。