田辺ひゃくいちの冒険

踏みつけたくなるウンコを求めて。

職歴の汚しかた(2)就職活動から早々に引き上げる

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まず、「宣伝会議賞でグランプリを受賞した今」に届いた15の質問への回答でも少し触れたが、わたしは就職活動というものをしなかった。というか、できなかった。

とある大手広告代理店の説明会みたいなものに一度だけ参加したものの、同じ色のスーツを着た大量の学生たちが華やかなビルのロビーで一列に並び、各々が積極的にコミュニケーションを図っているのを目の当たりにして、「ああ……」と早々に白旗を上げてしまったのである。

就職活動から身を引くと、同じような境遇のメンバーが寄り集まっていた小説ゼミに参加し、卒業後もふやかしたじゃがいもで飢えを凌ぎながら作品を書いて過ごした。


大学を卒業してしばらく経ったころ。といっても長袖から半袖に変わるか変わらないかくらいの間もない季節に、ふやかしたじゃがいもだけでは人間の身体を維持することはできないのかもしれないと気づいた。

このままでは学生時代に運よく余ったわずかな生活費も尽きてしまう。そこで、初めて転職サイトを開くことにした。まだ就職したこともないのに転職するというのもおかしいな、と独りで笑う。極限状態だと笑いのハードルはひどく下がるらしい。


最初に面接で訪れたのは豊島区のとある広告制作会社だった。池袋駅から徒歩20分。かつて見上げた大手広告代理店のビルとは血縁関係にないことが一目瞭然、古びた雑居ビルの一室へ向かう。

「雑誌広告のコピーライター募集」との文言を見て、即応募したのである。とにかく、何かしらを書く仕事に就きたかったといえば聞こえは良いが、そのくらいしか自分にできそうなことが思い浮かばなかった。「実務経験〇年以上」というフレーズは見て見ぬふりを決め込むことにする。


現れた面接官は、傷んだ茶髪の長髪。フィリピン生まれの加藤鷹といった風貌の男だった。開口一番に「なるほどね。で、結局、きみはここで何をしたいの?」と、まだ何も話していないのに話はすでに聞き尽くしたと言わんばかりに聞いてくる。

一夜漬けで読んでおいた就活マニュアルに書かれていたことを適当に話していたら、突然の舌打ち。「そういう胡散臭いのはいいんだよ。とりあえずさ、お金を稼ぎたいとか、お金が大好きとか、そういうハングリーな気持ちはないわけ?」とさえぎられた。そして、「ないとしたら、着たくもないスーツを着て、来たくもない面接に来るわけないですよね」と答えた。

なんかうまいことを言おうとしたのだが、よく考えたら思いっきり暴言を吐いてしまったというわけである。


フィリピン加藤が無言で立ち上がり、わたしを手招きする。

ああ、やってしまったな。そう後悔したものの時すでに遅し。ゴールドフィンガーで潮を吹かされるまえにさっさと逃げよう。玄関のほうへ足早に向かおうとすると、フィリピン加藤はわたしの腕をつかんで引き止め、反対方向へ引っ張っていく。

腹、頬、腹。少なくとも3発は殴られるだろうな。そんな覚悟を決めたとき、目の前にこじんまりとした空間が現れ、10人ほどの殺気立った男たちがこちらを睨む。3発どころでは済まないらしい。そう白目をむいたとき、「新人さん」と大声で紹介されたのである。

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