田辺ひゃくいちの冒険

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職歴の汚しかた(3)3人連続ですぐに辞めたポジションに就く

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そのまま席に座らされる。フィリピン加藤は隣の席で作業をしている小太りの男に「教育とかよろしく」と告げて消えた。

しばらくすると「教育とかって適当すぎますよね」と遠慮がちに笑いながら、その男が声をかけてきた。誰かに似ているなと思った。漫画家の蛭子さんだ。


蛭子さんはデザイナーとのことで、コピーライターのわたしとタッグを組んで広告を作っていくことになるだろうと言った。コピーライターと呼ばれて少し浮き足立つ。

ただ、まだ何をどうしていいのかまったく分からないため、不安のほうが大きい。すると、蛭子さんは「といっても、まだピンとこないですよね」と再び遠慮がちに笑いながら「とりあえず、ランチでも行きませんか」と誘った。


オフィスの隣にある中華料理店には客がいなかった。そりゃそうだ。まだ10時なのである。朝に食べた納豆の粘り気が少し口に残っているほどだ。結構、自由に休憩をとれる会社なのだろうか。そこは魅力的だと思った。

腹が減っていないのでチャーハンを単品で注文しようとすると、蛭子さんは「え、それだけで足りるの? 遠慮しなくていいよ」とチャーハンセット(ラーメン+チャーハン)を2つ頼んでくれた。


たわいもない会話が続くなか、黒縁メガネでヤクルトスワローズの野球帽をかぶった男が店に入ってきて、無言のまま同じテーブルに座った。目を合わせることもなく、ケータイをひたすらいじっている。

わたしが「え?」と戸惑っていると、蛭子さんがニコニコしながら「カメラマンの赤井くん」と紹介した。赤井さんは気にすることなく、わたしと蛭子さんがラーメンとチャーハンを交互に口へ運ぶ横で、ケータイをいじり続ける。


不意に「すぐに辞めないでね」と蛭子さんが言った。いえ、辞めるどころか、まだ正式に入社できたのかも曖昧なんです。そんなわたしの答えを遮るように「前の子も、前の前の子も1日で辞めちゃったから」と続けた。

突然、「前の前の前もですよ。1週間、もちましたけど」と赤井さんが言い、わたしは咳き込んだ。地声がものすごく大きいのである。驚いて赤井さんのほうを向くと、すぐにケータイへ視線を戻してしまう。


さらっと告げられたけど、なかなかの衝撃的な事実である。

「どうして3人も連続ですぐに辞めちゃったんですか」と聞くと、蛭子さんは「いろいろと反省しつつ工夫もしてるんだけどね。今回も、OJTに入る前に交流をはかっておいたほうがいいかなと思って、こうしてランチに来てみたり」と逸らした。そして、「すぐに辞めないでね。こんな俺たちだけど結構、傷つくからさ」と繰り返し、最後まで大切に取っておいたチャーシューを箸からテーブルに落とした。

赤井さんが素早くチャーシューを拾い、そのまま自分の口へ放り込む。そして、箸を宙に浮かせて微笑んだまま固まる蛭子さんに3秒ルールと叫んだ。そういう問題じゃないと思う。

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