田辺ひゃくいちの冒険

踏みつけたくなるウンコを求めて。

悪あがきしてたら中国語のキャッチコピーを本当に書くことになった話

by 波可多(bokete) - 每天28800次大爆笑。

今さら悪あがきしても仕方がないとはよく使われる表現だが、今さらだからこそ悪あがきはしてみたほうがいいらしい。

というのも「中国語でキャッチコピーを書けるようになりたい日本人の悪あがき」というシリーズを書いているのだが、実際に中国語でキャッチコピーを制作するチャンスをいただけたからだ。


きっかけは「ボケて(bokete) - 写真で一言ボケるウェブサービス」の台湾進出

日本語だと「写真で一言ボケて」になる部分を直訳するのではなく、何か代わりになるような中国語コピーを新しく書いてほしいとの依頼だった。もちろんやる。


わたしは北京語しか使えないので、早速、ボケての中の台湾語ネイティブメンバーと相談がスタート。すべてがメッセンジャーベースでスピーディーに、そして常に前向きな雰囲気で進むのがなんとも心地よい。

驚いたのは「中国語にはいわゆる日本の『ボケ』に該当する言葉が存在しないから困っている」ということだった。

たしかに調べてみると、「吐槽」という中国語訳がよく使われるのだが、正確には「ツッコミ」という意味になってしまうらしい。なんじゃそりゃ。他にも「ボケとツッコミ」の「ボケ」のほうを表す中国語があるにはあるのだが、一般には耳慣れない単語ばかりで使えないとの結論に至った。


つまり、「写真で一言ボケて」の代わりになる中国語コピーを考えなきゃならないのに、「ボケ」を表す中国語が存在しないというわけだ。ちなみに「ボケて」自体は中国語で「波可多(ボークードゥオ)」と発音に漢字をあてているが、今のところ「波可」は台湾文化の中で知られていないからキャッチコピーには使えない。(今後、ボケての進出により「波可」が新単語として台湾に浸透することを願う)

外国語でキャッチコピーを書くときならではの難関にぶつかり、苦しいというよりも、なんだか妙にワクワクして仕方がなかった。子供の頃に感じたような、腹の奥のほうが捻れてむず痒くなるような、どうしようもない高揚感である。


とりあえず、ボケてを表現するときに使われている「3秒で笑える」といった異なる切り口から模索をはじめることに。

で、結果から言えば、「每天28800次大爆笑。(毎日28800回大爆笑)」という中国語コピーが生まれた。1日は86400秒。3秒で笑えるなら毎日28800回も寝ないで爆笑しつづけられるね、というわけだ。死んじゃうけど。


実際に使ってくれるのだろうか。

実は、台湾版サイトオープンのときまで不安だったのだが、バナーやFacebookページだけではなく、光栄にも台湾版サイトトップページのタイトルタグ内にまで挿入してくれている(この記事を書いている今のところは)。嬉しい。


とりあえず、日本語ではなく外国語でキャッチコピーを書くことが、これほどまでに難しくて、これほどまでにワクワクするものだとは知らなかった。一発でやみつきになってしまう魔力が、そこにはある。

これほどまでに難しくてと書いた通り、当然ながらボツコピーもある。

日本のサービスであることを入れ込むべきかどうか、ボケてのサービス内容が現地のユーザーへダイレクトにわかりやすく伝わるかどうか。そういった観点から吟味することになったかと思う。

参考までに、主なボツコピーも晒しておこう。

中文:全日本都笑了。
和訳:全日本が笑った。


中文:让世界笑起来。
和訳:世界を笑わせろ。


中文:傻瓜们是超级天才。
和訳:バカたちが天才すぎる。


中文:傻瓜3秒变天才。
和訳:バカは3秒で天才になる。


中文:3秒就能笑,也能逗人笑。
和訳:3秒で笑える、笑わせる。


中文:边吃边看,你就能喷饭!
和訳:食べながら見れば、ご飯を吹き出せますよ!


なんだか日本語にすると余計に妙な感じで申し訳ない(とズルい言い訳をしておく)。

個人的には「全米が泣いた」のパロディ中国語版「全日本が笑った」を日本が海外(特に日本文化への憧れが強い国)へ進出していくときに使ってみたらどうなるのかも気になったのだけど、それはまた何か別の機会にでも再チャレンジしようと思う。

とりあえず、「波可多(ボケて)」は台湾に進出したばかりだから、まだボケ職人さんも少ないはず。つまり、自分のボケに注目してもらえるチャンスが多い。早速、新規登録して中国語でボケていってみようかな。中国語でスベるとか、スリルありすぎて震える。


以上である。

そういえば、海外向けの中国語コピーってTCC賞とかに応募できるのかな? もし、英語や中国語など外国語でキャッチコピーを書いたことのあるコピーライターの方がいたら、そこらへんについてぜひ教えてください。

最後に、全面的にサポートしてくれた奥さんには感謝しておきたい。さすがエンタメ系の中国語翻訳者としてならしただけあって的確なアドバイスの数々。ありがとう。


<長めの追記>

さて、ちょっと関係ないかもしれないが、この話を書いていて、とある友人のことを思い出したので、最後の最後になんとなく書く。


彼は大学時代の同級生で、同じサークルで、同じバンドで、同じ研究会にも所属していた。たしか身長も同じだった気がする。わたしには大学時代に「こいつは天才だ」と圧倒された人間が二人いるのだが、そのうちの一人である。きっと他の同級生に聞いても、彼のことを「天才」と認める人は多いだろう。

その異人ぶりを示すエピソードは色々とあるのだが、個人的に「この人には勝てないな」と思ったのは、彼が何の脈絡もなく、大講堂のスロープの手すりを乗り越えて、落ちたら簡単に死ねる高さに渡された天井の梁の上を歩きはじめたときである。しかも「怖えよー」と楽しそうに笑いながら。突然のことに度肝を抜かれた周囲の人たちはきっと「怖いならやめろ!」と思ったにちがいない。とにかく見ているだけでこっちの玉もヒュンヒュンしてしょうがなく、「お願いだからやめてくれー!」と叫びながら腰がくだけて座り込んでしまったのを覚えている。


彼とは卒業後も交流が続いた。当然、彼は絵に描いたような成功を遂げていった。一方のわたしはひどい有様だったわけだが、なぜか苦しんでいるときに限って彼と出会う機会が再三訪れるのだった。

彼が覚えているかは知らないが、そのたびに「コーイチ(わたしの本名)は絶対に何か一発当てると思うんだよね」と言い、実際に何かしらのヒントやチャンスも与えてくれるのである。彼のその言葉はわたしにとって心強く響いたし、どこかで心の頼りにしてきた部分もきっとあった。というか、かなりあった。実は、「中国へ中国語でダイレクトにコトバを発信できる人間を目指す」という今のわたしの目標を示してくれたのも彼である。


宣伝会議賞を獲ったときも真っ先に連絡をくれ、「涙が出そうになった」と喜んでくれた。贈賞式の動画を見た周囲から「太ったなあ!」とわたしが叩かれまくっているなか(笑)、何も言うことなく「Withings WiFi 体重計」を「お祝い」として送ってきてくれた。おかげで5kgほど痩せた。そういうさりげないやさしさが、彼が多くの人を惹きつける理由なのだろう。

ボケての話から、なんでこんな話になってしまったのかはよくわからないのだが、いつかは彼にお礼を伝えたかったというか、直接伝えるのは恥ずかしくて無理なので、ここに書いて残しておくことにする。というのも、このブログはいつか自分の子供たちにも読んでもらえるように書いているから。

子供たちよ、お父さんにはそんな恩人がいるのである。 詳しくは、お母さんにでも聞いてくれ。それでは。