田辺ひゃくいちの冒険

踏みつけたくなるウンコを求めて。

とあるメディア担当者からの「はてブ要請」を断ってみる冒険

先日、クライアントのメディア担当者から「もしよかったらですが、本日公開する記事のはてブにご協力をお願いします」との依頼が届いた。

要は、はてなブックマークの新着エントリーに載せることで、そのメディアへのアクセス数を伸ばしたいというものである。

メールには用意周到な方法が書かれていたが、後進を育成しないためにも詳しくはここで述べない。「もしよかったら」というわりには、各人ごとに具体的な指示が記載されていた。つまり、「絶対にやれよな」というわけである。

で、今回の対象とされている記事を見てみたわけだが、こんな記事を「はてブ」したり「いいね!」しようものなら、自身の価値を馬糞同然に下げかねないほどの内容だった。

早速、担当者に「このメディアには良記事がたくさんあるのに、どうしてわざわざこの記事なのか」メッセンジャーで問い合わせることにした。


以下、やりとりを大まかにまとめる。

百一「このメディアには良記事がたくさんあるのに、どうしてわざわざこの記事なんですか」

担当「この記事を書いたライターはかなりネームバリューがあるので、初動さえしっかりとやれば必ずバズるんです。だから協力してください」

百一「でも、読めば分かると思うんですけど、はっきりいって手抜き記事じゃないですか。有名ではないけれど、もっと良い記事を書くライターさんも他にいるわけだし、どうせならそっちにしたらどうですか」

担当「たしかにもっと良い記事もありますが、今回のライターはFacebookの友達やTwitterのフォロワー数が他のライターよりも圧倒的に多く、ソーシャルからの流入も大きく期待できるんです」

百一「そうですか。たしかにコンテンツの価値は『誰が書いているか』『その人の社会的な影響力』という観点からも評価されますから、メディアとしてそういったライターが書いた記事に注目するのも当然なのかもしれません。ただ、これってスパム行為じゃないんですか」

担当どのメディアもマーケティングの一環としてやっていることですよ。バカ正直に良いコンテンツを作りつづけてるだけじゃ誰も読んでくれませんし、ロングテールの検索流入だとかを目指そうにもそんな悠長な予算は確保できないのが現状ですから。最低でも、はてブで新着エントリーに載り、ソーシャルからの流入も一定数以上を集められなければ読者の目に触れませんし、キュレーションメディアに取り上げられることもありません。いわば、この世から無残にも散り去ってしまうわけです」

百一「なるほど。でも、そうなると、バカ正直に良いコンテンツを作っているのに、著名ライターのようにスパム行為でバックアップはしてもらえない名もなき書き手たちがかわいそうな気もします

担当「名があるかどうかも実力のうちですから仕方ありません。まあ、手抜き記事だろうがなんだろうが、すでに名が売れているライターの影響力によってそのメディアに注目が集まれば、名もなき書き手たちの記事が読者の目に触れる機会も増えることになるじゃないですか。有名ライターの記事と自分の記事が同じメディアで肩を並べるという事実も、彼らにとっては今後の大きな糧になるはずですし、結果として名前が売れるチャンスになるかもしれませんよ

百一「なるほど。でも、彼らがこれからどんなに名を売ってどんなに良いコンテンツを書いても、最低限のスパム行為は必要になるというわけなんですよね……」

担当「テレビに取り上げられた店に、本当にうまい店よりも長い行列ができるなんてのは当たり前のことじゃないですか。要は、マーケティングの力の差です。客数を増やすために、いかにメディアに取り上げられるかを追求するという方法もありだと思いますよ」

百一「ただ、テレビのケースとは違って、今回のは完全にスパム行為じゃないですか。誰もがやっていることだからといって『マーケティング』という言葉で片付けてしまうのはおかしくないですか

担当「現在、国民総ライター時代とか言われているわけですよ。そうなると情報のノイズもひどくなってくる。良いコンテンツが適切に注目を集めるためには、メディア担当者としてある程度の調整もしてあげないと埋もれてしまいます。それは果たしてスパム行為といえますかね」

百一「いや、はてなブックマークがスパム行為といったらスパム行為なんだと思いますよ」

担当「それは、はてなブックマークの論理に過ぎません

百一「いやいや、そのはてなブックマークの論理に頼ろうとしているのに、無視するってのはおかしくないですか

担当たかだか、はてブをいくつか集めるだけのお願いをしているのに大げさですって」

百一「先ほど、国民総ライター時代という言葉がありましたけど、個人ブログではそのたかだかいくつかのはてブをもらうのも難しいことなわけです。わたしもプライベートでブログやってますけど、1つのはてブをもらうのだって大変ですし、もらったら死ぬほど嬉しいですよ。その快感を得るために、ノイズといわれようがいわれまいが、毎日毎日、必死に記事を書いている人もいるじゃないですか。そういう人たちに対して申し訳ない気持ちになりませんか

担当「いや、個人ブロガーだって、はてブをいくつか集めるためにスパム行為してる人なんてたくさんいますよ

百一「個人がやってるからといって、というか個人がやっているならばなおさら、それを引っ張っていくことが期待されるメディア側の人間は、そういった手法に頼らない矜持を持つべきじゃないですかね。それが結果として、メディア全体を盛り上げることに繋がっていくんだと思いますけど」

担当「いやね、わたしたちがやらなくても誰かはやるわけですよ。しかも、ゴミみたいなスパム記事を書いている人たちが特にズルをするわけです。わたしたちだって本来ならばやりたくありませんよ。でも、自分たちのコンテンツに本当に自信があるからこそ、そういったゴミみたいな記事に無用な注目を集めさせないためにも多少の調整はしなければなりません

百一「そもそも、スパム行為が最低限必要になる情報流通のプラットフォームってなんなんでしょうね」

担当「百一さんだって、はてなブックマーク数やキュレーションメディアに情報収集を頼っているんじゃないですか」

百一「まあ、そうですね。つまり、二次・三次情報ではなく、良質な一次情報を自分自身で見つけ出す方法を各人が確立することってすごく大切なのかもしれませんね」

担当「やっぱりね、なんだかんだはてブ』の力はすごいんですよ。真に良質なコンテンツをこの世に発信するためにもはてブ』の力は必要なんです」

百一「なるほど。メディアのスパム行為を助長するもしないも、必死に記事を書いている無名の書き手を発掘するもしないも、自分自身がどの記事に『はてブ』をするか。『いいね!』をするか。結局は、一人ひとりの情報判断力にかかっているわけですね」

担当「まあ、そんな情報判断力を持っている人なんて少ないですけどね。ものすごく極論を言えば、バズっている記事が正義ですから」

百一「そうですか。わたしも自身の情報判断力を磨くように気を付けないといけませんね」

担当「まあ、そうですね」

百一なので、今回のはてブ要請はお断りします

以上、長くなったがおしまい。


実際には「はてブ妖精はお断りします」と、肝心の捨て台詞をおもいっきりタイプミスしたもんだから、「はてブ妖精ってw かわいいw はてブの神の使いですねw」との意味不明なコメントが返ってきただけだったが、きっと相手はかなり怒っていたんだと思う。

だって、すぐに直属の上司から呼び出しが掛かったから。ついつい、柄にもなく熱くなってしまったけど、よく考えたら相手はクライアントなんだった……。


で、その記事は結果どうなったか。見事、はてブの新着エントリーにもGunosyにも取り上げられたようで、メディアへのアクセス数は急上昇中とのこと。

クライアントのメディア担当者も大喜びで、「みなさんのおかげです! もしよかったら今週の金曜夜、みんなで飲みに行きませんか!?」とのメールが関係者全員宛に届いたほどだ。

「すごい伸びてますね! おめでとうございます!」

「金曜夜、了解です! 楽しみです!」

「やりましたね! 飲みましょう!」

そんな返信で盛り上がりを見せる中、完全に村八分となってしまったわたしは、Facebookの友達の数も少ないし名も知られていないけれど抜群にセンスのある駆け出しのライターさんが書いた同メディア内の記事を読んでいた。バズった馬糞記事なんかよりもクソおもしろかった。わたしは迷うことなくブックマークした。

ただ、見事にバズった、いやバフった著名ライターのバフ記事の直後にエントリーされたにも関わらず、そのあとは誰からも「はてブ」はつかず、新着エントリーにもGunosyにも取り上げられることなく、先ほどの担当の彼の言葉を借りれば、無残にも散り去った。

この世には「はてブの神」も「はてブの妖精」もいやしないのだ。

もしかしたら、この駆け出しのライターさんは「バズってるライターよりもはるかに良い記事を書いてると思うんだけどな。おれって才能ないのかな」なんて肩を落としているのだろうか。まあ、そんな弱気ならどうせやっていけないとは思うけれど。

でも、そんなことを考えていると、たとえ悪魔になってでも自分が面白いと信じるライターさんやコンテンツに注目を集めてあげようとしてしまう先ほどの担当の彼の気持ちがまったく分からないとは言い切れないような気にもなってくる。

でも、わたしはやらない。たとえ、今週の金曜夜にタイ料理屋で開催されるらしい、きっと楽しくて、きっと料理も美味しい飲み会に参加できなくなってしまったとしても、絶対にやらないんだから(涙)